筑波大学編入学試験体験記
東京大学と併願で、筑波大学理工学群社会工学類を受験しました。通称「つくばの社工」。社会的問題を数理的アプローチによって解決していく、そのための問題解決能力を養うという近代的な学類*1です。
今回はこの学校の受験体験談をご紹介します。
長くなってしまったので、絶対にこの学校に行きたいんだ!という決心がついている方は5年4月まで飛ばしてください。もし、まだ筑波大学を受験しようか迷っているのであれば、私が経てきた大学選びの葛藤やアドバイスもなにか参考になるところがあると思うので、最初からぜひ、読んで下さい!
試験対策
きっかけ
高専4年生のころ、当時専攻していた電気・電子システム工学科の勉強は、将来自分がやりたいことではないのだと気づきました。代わりに興味を持っていることといえば、経営学、国際関係学、プロジェクトマネジメントなどでした。編入学制度を利用して領域変更できないかと考えたところ、自分がやりたいことに一番近いことを学べるのが、筑波大学社会工学類でした。
一般に、高専から医学部や外国語学部への編入はできません。よって、領域変更をしたくても大幅な変更はほぼ不可能であるというのが大学編入のデメリットです。どうしても変えたい人は、高専3年生で学校をやめ、大学入学試験を受けることをおすすめします。
社会工学類は、電気・電子システム工学科とはカリキュラムが全く違うものの、工学というくくりは同じであるため、編入試験制度を利用して入ることができます。"経営"工学以外にも、"デザイン"工学、"医用生体工学"、探せば"工学"と名の付く学部は全国にいろいろあります。高専生、大学生で編入を考えている読者の皆さんには、このような抜け道があることを知ってもらい、編入先の学部をよく考慮されることをおすすめします。
3年春休み
3年の終わりに、ZENPEN*2主催の合同説明会に初めて参加しました。この頃からおぼろげに受験を意識し始めました。高専4年生は勝負の年です。4年生になったら勉強を始めないと、いい大学には受からない。私の読んだ編入体験ブログには全てそう書いてあったからです。勉強を始める前には、まずどんな大学があって、試験はどういったもので、どれが一番自分が選ぶべきかを3年生の時点で知っておかなければならないと思いました。つまり、徹底した情報収集による計画力が重要です。
編入試験は高校生の大学受験に比べて圧倒的に情報がありません。参考書の選択肢も少なく、過去問題が出回っておらず(解答なんてもってのほか)、そしてなにより周りが理解していないためサポートを受けにくいです。そんな中で、マイノリティな編入生による、直接面談の機会を得られるZENPENは救世主です。オープンキャンパス以上に行く価値があります(笑)
この時、周りには4年生ばかりで3年生は私を含めて2人くらいだったように覚えています。「3年生から勉強始めたら、どこでも行けるよ!東大でも京大でも!」「ムリですよ〜」こんな会話をしました。
ここから推測できる仮設が2つあります。私がこれまで読んできた「低学年の頃から編入試験勉強コツコツやってきました」というブログの著者たちは、みんな嘘つきなのか。それとも、一人でやっていてこういう説明会には出てこないのか。未だに受験体験記を読んでいるとコツコツ型の人が多いように見受けられますが、周りには全然いないんですよね。真偽は置いておいて、最強なのは序盤は説明会にどんどん参加して情報収集しつつ、早期からコツコツ始められる人だと私は思います。
3年生から動き出す人は少ないけれど、だからこそ差がつけられます。それこそ東大や京大にだって行けます。4年生の春になって説明会で「どの大学にしようかな〜」と言っている人は流石に遅いですよ、大半が落ちると思います。ですから、3年の春がおすすめです。
このころは、特に将来やりたいこともわかっていなかったので、自分のレベルで少し(?)背伸びしたら届きそうな大阪大学、もしくは筑波大学の電気系学科に行きたいと考えていました。これは大学のイメージ、立地、そして先輩の姿から思いついただけのぼんやりとした理由でした。今になってみれば、この時の単純な考え方は危ないし、後に不幸を生むものであることがわかります。
運命というのは不思議なものです。この時に筑波大学の存在を知ったおかげで、筑波大学社会工学類を知り、結果的に、東京大学システム創成学科を知ることになりました。
4年夏休み
この年はラッキーでした。横浜国立大学と筑波大学のオープンキャンパスに連続で行くことができました。相変わらず春休みから勉強も、大学調査も進んでいなかったためそれぞれ電子情報工学科と知識情報・図書館学類を見に行きました。筑波大学は別の学類に行きたかったのですが、予約がすぐに埋まってしまったのでいけませんでした。早めに、申込みのチェックを始めましょう!
オープンキャンパスは大学の空気、場所、人などを生に体験できるので一度行ってみるとイメージが付きやすくなっていいと思います。高専生用のオープンキャンパスというものはなく、高校生に混じって行動しました。そのため入試説明や質問コーナーでは有力な情報が得られず、そういった点はZENPEN等高専生に焦点を絞った説明会の方が優れていると感じました。
この時、筑波大学を見学し工学部に編入した先輩の部屋に泊めていたいたこともあり、大学、学部というか、この学園都市が好きになりました。広いキャンパスと先端の研究設備、安いアパートに豊富な御食事処があります。ここで大学生活を過ごしたいと思いました。
なお、私にとって横浜国立大学の電子情報学科はしんどそうだったし、知識情報・図書館学類はつまらなさそうでイマイチだったので、パンフレットを見て他に楽しそうな学類ないかなと思って探し始めました。そして、社会工学類を見つけるに至りました。
そこからは、ホームページを見たり、在学中の先輩に連絡を取ってみたり、学類が出版している本を買ってみたりして勉強するうちにいつしかこの学類に夢中になっていました。
4年11〜2月
「よし、今日こそ始めるぞ!」
「よし、やるぞ!」
ずっと思っていたのにもかかわらず、なかなか始められませんでした。時間は無慈悲にも一定の速さで過ぎていきます。上記のブログには、編入勉強にはターニングポイントがあると書かれていました。夏休みが終わった10月、勉強の秋11月、冬休み12月、新年1月、春休み2月(毎月やんとか言わないで)...
ことごとく見逃しました。その敗因は、断捨離がうまくできていなかったからです。今はこの仕事で忙しいから。定期試験勉強があるから。TOEICガチるから。そうやって言い訳して、常に逃げていました。だから、誘惑を断ち切る必要があります。誘惑に弱い人間こそ、断ち切るべきであると思います。
自分に甘かったが故に、「3年生から勉強始めたら、どこでも行けるよ!」と言われた時期にあっという間になってしまいました。過去の私は絶望してください。
4年春休み
例のごとく、ZENPENに参加しました。今回は第一志望筑波大学、第二志望首都大学と決めた上で情報収集を完璧にした状態で臨みました。
この大学を受けるべきかという迷いが一切ない状態なので、高専から編入された先輩に聞くべきことを聞くことができて(参考書は何を使ったかなど)、1年間で成長は確かにあったかと思います。
ここで、誤算があったんですね。
つくばの先輩:「英語できるの?なら筑波余裕で受かるよ!」
英語だけは自信あるんです、数学ノータッチなんだけど…根拠もない自信がふつふつと出てきて、案外余裕かもしれんと思い始めてしまいました。
だから、東大の先輩に「は?まだ勉強してないとか無理だから辞めたほうがいいよ」と発破をかけてもらいに相談に行きました。そしたら、こう返ってきました。
とうだいの先輩:「東大、余裕だよ。」
聞くところによると受験科目は数学と英語だけです(志望学科による)。その後、いろいろと考えるところがあって、結果的に東大を受験することに決めました。
5年4月
説明会から帰宅数日後、仕事や予定を全て消化し終え断捨離ができたため、ようやく勉強を開始することができました。まずは筑波の過去問から解き始めました。この時は「案外いけるやん!」と思っていました。初見で半分は解けたからです。しかし、実はほとんど間違っていたことが6月くらいに発覚します。このやり方はおすすめしません。
筑波の試験は毎年、線形代数、積分、確率・統計です。線形代数ってどんな数学だ?状態と、高校生レベルの確率もできなかったのでまずは編入数学徹底研究を使って勉強し始めました。少しできるようになったら編入数学過去問特訓で演習量をカバーし、解けない問題があればスバラシク実力がつくと評判の線形代数キャンパス・ゼミや、スバラシク実力がつくと評判の統計学キャンパス・ゼミで確認、勉強しました。一ヶ月で、線形代数、確率、統計は一周しました。
5年5月
上の範囲は東大試験と被る範囲なのでいいのですが、東大でだけ出題される範囲があります。複素関数、ベクトル解析、確率漸化式です。東大第一志望と言っているためこれらを捨てるわけにもいかず、5月は東大対策をしていました。筑波大学は数学だけ、東京大学は数学と英語だけだから楽勝と考えていましたが、筑波大学で確実に出ない範囲の数学も勉強しなければならなくなり、騙された!と思いましたね(笑)
4月で筑波の出題範囲は大方カバーできているので、毎日復習をしつつ線形代数をキーポイント線形代数などを使って補強するくらいでした。
5年6月
筑波の出願は結構遅いです。しかも、名前や住所などを書くだけで封筒も書かなくていいし、調査書もいらないという楽さです。受験者数が多いがゆえに効率化されていて、面倒くさがりな人にとってはうれしいです。
勉強はというと、過去問を4年分、2〜3周解きました。男女数名が乗っているエレベータの問題など、過去に統計で難しい問題が出ていたので統計学の難問を探してやっていました。
5年7月
東大試験、首都大試験と序盤にあったため筑波対策はほとんどできませんでした。そして、東大の一次試験に合格したこともあり、その後はすっかり気が抜けていました。直前勉強も全然しておらず、面接前日には同じく本命が受かった気でいる友達とゴロゴロしていました。
宿泊には筑波研修センターがおすすめ!
大学まで バス+徒歩 所要時間40分
3700円(朝食なし)
おすすめポイント:おそらく、試験会場にいちばん近く、いちばん安いです。ホテルではなく研修施設なので、ルームサービスもなく内装はまるで寮のようですが、受験のために来ていることを考えれば十分だと思います。Wifiなし、テレビなし、エアコンあります。銭湯での入浴の際にはバスタオルの持参が必須なのでご注意(貸出有料)ください。目の前にコンビニがあり、食事はそこで済ませました。付近にはお食事処も幾つかあります。
試験当日
一日目土曜日筆記試験
・科目が数学のみ
・TOEIC点提出(聞いたところでは730点くらいで満点)
数学
10:00〜12:30
・大問6つ
①線形代数(ブロック行列) ②線形代数(固有ベクトル) ③積分(一変数関数の連続性、微分可能性) ④積分(不定積分4問) ⑤確率・統計(サイコロ2個、期待値とか) ⑥確率・統計(χ自乗分布を用いた母分散の差の検定)
・大問1、4、6は予想できませんでした。試験科目が数学だけ、しかも出題範囲が絞られている分、範囲の理論、類題はすべて対策しておくべきでしょう。このサイトがおすすめです。
高校数学の美しい物語 | 定期試験から数学オリンピックまで800記事
・統計学は他大では出題されにくい範囲(東大とも違う)なので、ここのためだけに勉強することになると思います。
・今年から解答用紙が特殊な仕様になってした。解答用紙、下書き用紙が上端糊付けされたものが6枚渡されました。それを、破らないように剥がして、学部、学類、名前、受験番号、大問番号を全てに記入します。社会工学類の場合だと12枚です。学類によっては、書く枚数が多すぎて試験開始後にも名前を書いていたそうです。
・メモ用紙ではなく、「下書き用紙」なのでこちらにも回答しなければならない、というわけではないようです。メモ用紙のように使っても使わなくてもいいです。ややこしい。
・私の見立てだと、偶数年の試験は奇数年よりずっと簡単です。H30年に試験を受ける人はチャンスだと思います。
二日目日曜日面接
面接
15:30~
・受験者数:
社会工学の場合は17人中3人合格 倍率5.7倍
・呼ばれる順は受験番号が若い=願書を早く出した人
・学類によっては60人とかいるので、早く願書を出さないと最悪で2時間程度待つことになります。その間、電子機器の使用は禁止です。暇つぶしの用意がないときついです。
・各学類違う面接官、面接室が2つ
・基本は10分間
・面接官は学科の年配の先生と若い先生の2人
・かばんを外の机に置く→ノック→受験番号と名前と学校伝える→はじまるという流れ
戦略
・移動式の黒板が、受験者と面接官に対して斜め45度に置いてあります。誘導すれば解き直しをさせてもらえるというのは本当のようです。
・筑波の理工学群は、事前提出処理が少ない。調査書も、志望書もありません。よって、面接官は当日試験とTOEICの点数しか知らない状態であなたを判断することになります。
・これまで課外活動や資格取得に頑張ってきた人は、無理やりねじ込んでアピールしていくしかありません。
・筆記試験を頑張ろう。面接は形だけ。
聞かれた内容
「志望動機を教えて下さい」
「やっている課外活動の内容について教えてください」
「試験の出来はどうでしたか?」
「英語が得意なんだね(TOEICを見て)」
「都市環境コースではなく、社会経済コースを選んだのはなぜですか?」
「統計学や数学の知識を使って何をしたいのですか?」
「やりたい研究は?」
筑波大学を受験してみて思ったこと
TOEIC点は全然加点されません!!それが英語筆記試験の代わりであろうと、当日の数学筆記試験のほうがTOEIC点よりも大きな割合を占めているように感じられました。数学の点数で足切りをし、面接とTOEICスコアで見極めるという形になっていると思われます。何点持っていても安心ではないです。
ちなみに、今年受験者17名、そのうち合格者3名、そのうち東大合格者が2人、よって実質編入するのは1人以下です。例年は、4〜5人獲得していた印象がありますが、最近噂であるように筑波大学は編入学の定員を減らす流れにあるのではないでしょうか。さらに、旧帝大の滑り止めによく使われることも考えると倍率はとても高いです。今後はさらに(倍率の関係で)難しくなっていくことが予想されます。